ウールは見た目が美しい
ウールの見た目、審美性
服を買うとき、素材を気にしたことはありますか?
服の見た目は、色やデザインの印象が強いと思いますが、その色やデザインを成り立たせているのは素材です。
今回はウール素材の「見た目」に注目してご紹介したいと思います。
「ウールの審美性」についての研究
ウールはどんな色であれ、落ち着いていて、表面感が何となく美しい。そこを研究できないか、という思いで、過去に京都工芸繊維大学と日本羊毛工業技術開発協会(日本毛織株式会社も所属)が共同で、「ウールの審美性」について研究を行いました。
「審美性」って?抽象的で難しいですが、「見た目の美しさ」を重視する際に用いる言葉です。この研究は、人間の感性という主観的で論理的に説明しにくい反応を、科学的手法で分析し、ものづくりに生かそうとする「感性工学」という技術分野になりますので、研究としては難しい面があり、研究期間は5年間にも及びました。ここではその一部をご紹介します。
①ウール以外の素材も含めた感性評価実験
まず、布を評価するための19の評価語対を選定しました。「布の風合い(手触り)」に関する評価語対として、“ウェット-ドライ”、“かたい-やわらかい”等、「布の機能」に関する評価語対として、“伸びる-伸びない”、“通気性の良い-通気性の悪い”等、「布の価値」に関する評価語対として、“高級-低級”、“好き-嫌い”、“綺麗・美しいと感じる-綺麗・美しいと感じない”等です。評価する布はウール以外の素材も含む33種類で、黒色の無地で統一しています。評価方法は、下写真のように球体に布を被せて布を立体的に見せ「視覚のみで評価する方法」と、机上に置かれた布を見ながら自由に触り「視覚と触覚で評価する方法」の2通りで、布の素材は明記していません。被験者は一般人である学生60名で、布1点1点について19の評価語対を使用してその印象の強さを記録してもらいました。また、同じ布の物性値も計測し、物性とことばの関連も見ていきました。
その結果(下グラフ)、布の素材について素人の学生であっても、「視覚のみ」あるいは「視覚+触覚」で、シルクは高級、綺麗・美しいと感じられ、綿と麻は低級、綺麗でない・美しくないと感じられました。一方でウールは、“高級-低級”、“綺麗・美しいと感じる-綺麗・美しいと感じない”についてはどちらでもないという結果になりました。
そこで、ウールの審美性を追究するために、シルクなど“高級”、“綺麗・美しい”の評価が高かった布の特徴を満たす布をウールで作成し、ウールのふり幅を大きくして、ウールだけで調査することにしました。
②ウールだけを用いた感性評価実験
上記①の結果を受けて作成した布を含め、ウールの布20点で、①と同様の評価を行ったところ、光沢をつけてやわらかく仕上げている日本毛織株式会社(ニッケ)の最高級素材“GOLDEN MAF”(ニュージーランド産の希少ウール、超繊細で繊度13~15.5μm)が、素人の学生であっても“高級”、“綺麗・美しい”の評価が高い結果となりました。
そして分析の結果、審美性にかかわる要素は、“高級”、“綺麗・美しいと感じる”ということ、布では“光沢のある”、“やわらかい”ものということが分かりました。
また、「布の風合い(手触り)」と「布の機能」に関することばの印象評価と物性値に高い相関が見られ、物性値をベースに審美性の高い布の開発が可能になりました。
③ジャケットの感性評価実験
ジャケットを使った実験では、上記②で高級”、“綺麗・美しい”の評価が高かった“GOLDEN MAF”やウール以外の素材も含めて12着のジャケットを作成し、ジャケット用に選定した8つの評価語対についての評価を行いました。さらに、各ジャケットが合う場についても調査しました。被験者は一般人である学生に加えて衣服素材専門家やアパレル関係の方にもご協力いただき88名で行いました。
その結果、高級感があるものは、“光沢のある、やわらかいもの”ということが分かり、布で評価されたことがジャケットでも同様に評価されました。また被験者は各ジャケットがどのような場に合うかをはっきりと分けて評価し、使用するシーンによっては綿が良い、高級ではないけれど麻が好きなど、「高級感がある=好き」とは限らないということも明らかになっています。
結果
審美性にかかわる要素である“高級”と感じる布には共通の光沢や風合い(手触り)があり、その傾向は製品になっても同じでした。
そしてその“高級”と感じる光沢と風合い(手触り)を持ち合わせた素材は、ウールで作り出すことが可能です。
ウールは上質感長持ち
学校制服はウールがよく使われています。ウール制服は3年間着用しても表面のてかりや変色、毛玉、シワなど、他の素材に比べると気にならず、卒業まできれいな状態で着用できます。
以前、日本毛織株式会社(ニッケ)のホームページに、「50年前に買ったニッケのスクールコートを今も娘が愛用しており、まだまだ着たいのですが裏地がボロボロです。修理はできますか?」とのお問い合わせをいただいたことがあります。現物を拝見すると、表地(ウール)の状態は良く全く色褪せていませんでした。コートは娘さんに受け継がれて愛用され、次はお孫さんにもと思われているということでした。丁寧に扱っていただくと親子3代にも渡って着用できるのは、ウールだからだと思います。
最後に ~使用状況に応じた素材選びを~
“制服はウールが良い!”と思っている私ですので、小学一年生の息子の学校指定制服がポリエステルだと知ったときはがっかりしました。しかしいざ入学してみると毎日ドッジボールを全力で楽しんでくるので制服は砂で真っ白、毎日洗濯機で洗っても大丈夫なポリエステルで良かったのかもしれないと思う次第です。息子がウールの制服をきれいに着こなせてウールの良さを感じられるのは中学校に入ってからかもしれません。
ウールの制服も洗濯機で洗えるものが最近では多く出ており日本毛織株式会社(ニッケ)でも洗濯機洗い可能な良い素材を開発し販売しておりますが、ポリエステルほど洗濯耐久性は高くありません。しかしウールはこのブログでご紹介しておりますように、見た目の美しさも含め良い特性がたくさんあります。
使用状況に応じた素材選びが重要ですね。
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