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ウールの秘密

ウールのパーマネントセット

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ウールのセット

綿のスラックスの折り目(センタープレスやクリースと呼ばれます)は水に濡れると簡単に消失してしまいますよね。このようなセットは一時セット(temporarily set)と呼ばれます。これはアイロンやプレス機でつけるものでウールにもあり、熱と蒸気で水素結合を切ったり繋いだりする現象を利用しています。「ウールのシワと手入れ」で書いたウールや綿の着用シワと回復はこの一時セットに関するものでした。

一方、ウールには水に濡れても消えない折り目(スラックスのセンタープレスやスカートのヒダなど)があります。これはパーマネントセット(permanent set)と呼ばれるもので薬剤を用いた”シスチン結合の切断と再結合”によるウール特有の現象を利用したものです。この現象は身近なところでは髪の毛のパーマに利用されています。

パーマネントセットの原理

ウール製品は体の動きに追従し、シワになりにくく変形しても時間がたつと元に戻る弾性体です。ですからシワとよく似た変形であるプリーツ(スラックスの折り目やスカートのヒダ)を取れにくくするには変形状態を”元の状態”として形状記憶させる必要があります。

ウール内部のコルテックスは主鎖と呼ばれる長くつながった分子結合(下図[羊毛の構造と物性 日本羊毛産業協会編集より引用、赤字は追記])と、隣り合った主鎖同士を横に繋ぐ側鎖結合があります。側鎖が主鎖同士をしっかり繋ぐことで羊毛に強度や弾力性などの特徴を与えています。側鎖結合には水素結合・イオン結合そしてシスチン結合があります。水素結合やイオン結合は水分やpHにより切れることのある比較的弱い結合ですが、シスチン結合は通常の環境下では切れることのない強固な結合です。パーマネントセットは薬剤でこのシスチン結合の一部を切断し、変形後(プリーツ後)に再結合させることで変形状態を固定化させるものです。

シスチン結合の切断と再結合

シスチン結合を切る薬剤が還元剤です。還元剤には亜硫酸塩系のものとシスチン系のものがあります。いずれの薬剤も60℃以上のアルカリ水溶液に溶かします。キューティクルが開いて薬剤が浸透しやすく、またウールが還元状態になりやすいからです。還元剤はシスチン結合の一部を切断し(下図②)、繊維は柔らかくなり膨潤します。この状態で生地を折り曲げると(直鎖が折り曲げられると)切れたシスチン結合の相互の位置にズレが生じ、この状態で酸化されるとズレた位置で近くの相手と再結合することで折り目が安定化します。(下図③) 酸化は一般的に加熱乾燥中に空気中の酸素を利用(空気酸化)して行われます。

実際の方法としては、スラックスやスカートにあらかじめ所定の位置にアイロン等で折り目をつけておき(一時セット)、折り目部分に還元剤を吹き付けて浸透後、蒸気プレス機で処理します。プレス前半では加熱水蒸気が速やかにコルテックスに侵入して温度を上げシスチン結合を切断します。プレス後半では加熱されたプレス機のコテでプリーツ部分は乾燥し、このときに空気酸化されることでシスチン結合が再結合します。

毛髪のパーマのしくみ

髪のパーマも原理は同じです。まず毛髪にアルカリ剤を含む還元剤(第1剤)を塗ります。この状態でロッドに巻き(変形させる)、60℃以下に加熱してシスチン結合を切断します。その後、酸化剤(第2剤)を塗ることでシスチン結合が再結合し、ウェーブが固定されます。 パーマの場合は人体の安全性を確保するために薬機法で定められた薬剤を用い、60℃以下で処理するのが製品のプリーツと異なるところです。

 

 

おわりに

製品のセットでは毛髪のパーマと異なり、強い薬剤や高い温度で強いセットを行うことができます。しかし染料の変色や強力の低下などデメリットもあるため、メーカーは工夫をこらして独自の処方でセットしています。

ウールの還元/酸化反応はプリーツセットの他にストレッチ加工にも応用されています。それは別の機会にお話しすることにいたします。

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