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ウールは “水を弾くのに水を吸う” 不思議

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ウールは水を吸う?

「ウールは”蒸れないのに水を弾く”不思議」の記事でウールのキューティクルの表面には撥水性の18-MEAの膜があり、そのために水を弾くことを書きました。ではウールは撥水加工した合成繊維のように多量の汗をかいても全然汗を吸わないのかというとそうではありません。ウールは ”あるところ” を境に水を吸うようになります。

自動的に開閉するキューティクル

キューティクルは下の図(a)のように乾燥した状態ではぴったりと閉じており、表面を覆う18-MEAが水を弾きます。汗をかきはじめて衣服内の湿度が上昇してくると、湿気(水蒸気)はキューティクルの隙間を通ってコルテックスに吸収されるため衣服内は快適に保たれます。(→「ウールは”蒸れないのに水を弾く”不思議」

ところがこのまま吸湿状態が続き、激しい運動などで液体の汗をかくころになるとキューティクルの内側を構成するエンドキューティクルは著しく膨潤します。(最大100%程度) 一方、キューティクルの外側を構成するエキソキューティクルはあまり膨潤しません。そのためキューティクルの内側と外側に膨潤度の差が生じ、まるでバイメタルのように外側に反り返り、 ”スケールが開いた” 状態になります。(下図(b))この状態になると水蒸気だけでなく液体の水も大きく開いたキューティクルの隙間から内部の親水性のコルテックスに吸収されるようになります。

逆に衣服内の湿度が下がったり、天日干しなどでウールが乾燥してくるとコルテックスに吸収されていた水分は徐々にキューティクルの隙間を通って外に放出されていき、エンドキューティクルが収縮するとキューティクルは閉じて、元通りの撥水性になります。(可逆反応)

キューティクルが開く”あるところ” は?

ではどのタイミングで水に濡れるほどキューティクルは開くのでしょうか? 下の図(長澤:加工技術2002 より引用)は含水率と毛管伝導度の関係を表しています。毛管伝導度がプラス側は親水性(水を吸う)、マイナス側は疎水性(水を弾く)を表しています。ナイロン・綿は常にプラス側で親水性ですが、ウールは通常(含水率12~15%程度)ではマイナス側にあり撥水性を示しています。しかし含水率が20%を超えるあたりでプラス側(親水性)に転じることがわかります。ウールの含水率が20%になるのは相対湿度が82%前後のときです。つまり相対湿度82%という高湿度環境に十分長く晒されるとウールは濡れるようになります。 ウールを水中に漬けると最初は濡れずに浮かんでいますがしばらくすると濡れて沈むのがわかると思います。

 

オールマイティな繊維、ウール

運動初期のように軽い汗(水蒸気の汗)をかくあいだはウールは湿気を吸うだけで水を弾く撥水性ですが、多量の汗(液体の汗)をかくころには汗を吸う親水性に変わります。湿度環境に応じて親水性⇔撥水性が切り替わるせんいはウールだけです。ウールがあらゆる環境に対応できる “オールマイティな繊維” といわれるのはこのためなのです。

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